最後は仲直り
野原広子の漫画『妻が口をきいてくれません』(集英社、2020年)を読みました。
私はこれまで、作者が描く漫画のテーマに興味があって作品をいくつか手に取ったのですが、過去に読んだ『消えたママ友』(KADOKAWA、2020年)と『ママ友がこわい』(KADOKAWA、2015年)は、ともに共感するのが難しかったです。ちなみに本作は『消えたママ友』と二作品で第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞しています。
で、今回は本作をほぼ一気読み。やはり首を傾げる箇所がいくつかあったものの、過去に読んだ二作と違い、全体的には共感するところが多かったです。
結婚し、子供をもうけて家庭を築き上げた夫婦が、慌ただしさの中で少しずつすれ違いを起こし、愛情が減少し、やがては破局寸前にまでなる話。タイトルにある、妻が口をきいてくれない、という事態を巡る夫と妻それぞれの思いと行動を描いています。
ここから先はネタバレになりますが、妻が口をきいてくれなくなったきっかけは、餃子の焼き方に関する夫の心無い一言です。それから数年にわたる、妻から夫への半ネグレクト生活が続き、ついに夫が離婚を切り出す。すると、私はまだ好きなのに、と夫にとっては衝撃の台詞を妻が言い、意外な展開を見せて、最後は互いに謝って仲直りする。かなり大雑把にまとめましたが、だいたいそういう話です。
ストーリーテリングが巧い
これまでに読んだこの作者の漫画は、家族でなく友人知人との関わりの中で、本来なら溜める必要のない余計なストレスを溜めてしまう話で、そんなこと気にする必要ないのに…と思えてしまったのですが、今回は家庭内なので逃げ場がないことから、このストレスは避けがたい、と思いました。
もちろん、家庭内(というより夫婦間)のストレスも「離婚」によって回避できるので、相手にあんな仕打ちをするくらいなら別れる方がいいんじゃない?という思いはありました。別れないでほしい、と子供が泣いて頼んできたことが妻が離婚を踏み止まった理由ですが、すでに愛情のない相手と夫婦関係を続けることもまた、家庭環境や子供の成育に悪影響を与えると私は考えているので、そこも共感は難しかった。ただし、妻には経済的弱者という側面もあり、問題はそう単純ではありません。
妻の役割は果たすが夫とは口をきかない、という妻が取った作戦は、後から考えると、「私のことを妻としてきちんと尊重してね」という無言の訴えだったことがわかります。この作戦、ちと幼稚で陰湿な感じがしないではないですが、夫とはいえ所詮は他人です。どれだけ誠意を尽くして言葉で訴えても他人を変えることは難しいため、気づいてもらえるよう行為で示す、という選択をするのは共感できます。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」という言葉の通り、この漫画で描かれる夫婦が仲違いしたきっかけは、餃子の焼き方を含め、どうでもいいだろうそんなこと、と他人なら思うことです。しかしリアリティがあり、何よりストーリーテリングが巧いので、読ませる漫画になったのだと思いました。