杉本純のブログ

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難しい漫画

野原広子の漫画『消えたママ友』(KADOKAWA、2020年)を読んだのだが、これはどうしたもんだろう…と複雑な気持ちになっている。ちなみに本作は『妻が口をきいてくれません』(集英社、2020年)と二作品で第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した。

漫画は複数のママ友の視点によって進行して、それぞれが「消えたママ」をめぐってお互いに不信と疑念を抱くストーリーになっている。ママ友同士のコミュニティや友情や絆がいかに不安定なものであるかが伝わってくる。それが本作の主題だろうが、消えたママは夫と姑から虐めを受けていて、それが消えたママが抱える問題の核心として終盤で明らかになる。

夫と姑による消えたママへの冷たい仕打ちは、それなりに笑えないもので、こんな薄気味悪い奴らがいるのかとすら思えるが、問題は消えたママの行動である。自分の愛する子を奪われ、酷い仕打ちをされたにも関わらず、相手ととことん対決することなく逃げてしまっている。もっとも、家庭の中であれほど冷淡にされれば恐ろしくなって逃げてしまいそうだが、逆に、子への愛が本物なら、子を強く抱きしめ、絶対に離さず二人で生きていくことだってできるではないか?とも思える。

ママ友たちもまた、地元の小さなコミュニティが人生と世界の全部になってしまっていて、その中であれこれ疑ったり悩んだりしている。そこから一歩外に出る勇気があればいろいろと楽になるのでは?と思える部分もあった。

とはいえ、やはり人間というのは弱い生き物で、消えたママは、弱いからこそああなってしまったのだとも言える。それはそれで十分にリアリティがあり、説得力もある。ママ友たちだって、まぁ人間こんなもんだよね、という目で見れば、上のような突っ込みは入れる必要はない。特に、子供が小さいうちは地元のコミュニティへの依存度が高くなるだろうから、外の世界へ踏み出すのは難しいだろう。

と、そんな風に読むこともできなくはないのだが、とするとまた逆に、この漫画が描いている虐めと不信と疑念の世界は、それなりに強い意志と実行力がある人なら難なく打ち破れるんじゃないか?という気もしてきて、複雑な気分になる。

ただし消えたママの息子は例外で、子供があの状況を打ち破るのは難しいと思う。そして息子の将来を思い浮かべると、ゾッとするものがある。