杉本純のブログ

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ポオ「メエルシュトレエムに吞まれて」

大渦潮からの逃亡譚

エドガー・アラン・ポオ「メエルシュトレエムに吞まれて」(『ポオ小説全集3』(創元推理文庫、1974年)所収、小川和夫訳)を読みました。

ノルウェーのロフォーデン地方にあるヘルゼッゲンという山の頂上で地元の老漁師が語り手に語る、大渦潮からの逃亡譚。メエルシュトレエムはその大渦潮のことですが、地元では最寄りの島の名前をとってモスケエ・シュトレエムとも呼ばれています。

Wikipediaの「メイルストロム」を参照すると、ロフォーデン諸島のモスケン島周辺海域に大渦潮が存在し、“Moskenstraumen(モスケンスラウメン)”と呼ばれるのだとか。

小説といえばそうともいえますが、人間関係が中心的に描かれているわけではなく、手記で伝えるべき珍体験を会話体にして、小説にしたという感じです。

海の冒険の描写は長篇「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」ほどではありませんが、やはりかなりの筆力で、読ませます。

ロマサガの必殺技

Wikipediaの「メイルストロム」では、本作の記述が事実であると誤解され、百科事典に流用されたそうな。また同じくWikipediaの本作の項を見ると、その文章はブリタニカ百科事典の以前の版から剽窃したものだった、とのこと(本作の本文には「大英百科事典(エンサイクロペーディア・ブリタニカ)」からの引用だと断ってある記述があります)。

『ポオ小説全集3』冒頭の口絵は、ハリー・クラークによる本作の挿絵です。クラークはアイルランドのステンドグラス作家で、アンデルセン童話集やペロー童話集、『ファウスト』などの挿絵も手掛けました。

ちなみに私は、「メイルシュトローム」というと「ロマンシング サ・ガ」のスービエやフォルネウスの必殺技として印象に残っています。それらは渦潮というか津波のようなものですが、たしか学生時代にポオの本作のタイトルを見た時、ああこれロマサガの技じゃないか、と思ったものでした。