杉本純のブログ

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完璧よりも完成

パレートの法則

山本弘『創作講座 料理を作るように小説を書こう』(東京創元社、2021年)は、作家の山本弘による創作講座を書籍化したもの。「ミステリーズ!」vol.78~84(2016年8月~2017年8月)に連載されたものを、書籍化にあたり加筆修正されました。

「はじめに 美味しい小説を書きたい人のために」は恐らくはワナビである一般読者からの質問に山本が答える形式の記事になっています。

その最後の方、「長いことスランプだったそうですが、どうやってスランプから抜け出せたんですか?」という問いに、山本は次のように答えています。

ラプラスの魔』のノヴェライズを引き受けたのがきっかけです。
 それまではアマチュアでしたから、締め切りなんてなかった。完璧を目指して、いくらでも時間がかけられたんです。そのせいでなかなか完成しなかった。
 でも、『ラプラスの魔』は仕事でした。何月何日までに書き上げろと、締め切りを切られたんです。そうなると、「完璧を目指す」なんて甘いことは言っていられません。少しぐらい不満足でも、締め切りに間に合わせるために、がむしゃらに書き進めるしかありませんでした。
 そうしたら、嘘のようにあっさりとスランプから抜け出せました。
 つまり完璧主義が原因だったんです。完璧主義を捨てたとたんに書けるようになった。僕は一〇年かかって得たこの教訓を、胸に刻みつけました。

この後、小説は数学のテストなどと違って決まった正解というものがないので、それに近づくことはできても到達はできない、だから完成度は90%を目指せばいい、と述べています。

パレートの法則」のようなものか、と思いました。「パレートの法則」は、全体の数値の大部分は、その全体を構成する一部の要素によって生み出されている、という法則で、「80:20の法則」とも呼ばれます。

ある仕事で100点の完成度を出す場合、80点の完成度には全体の20%程度の時間で到達していて、残りの完成度20点分を仕上げて満点にするために、全体の80%の時間がかかる、というもの。つまり、完成度80点までは短時間で到達できる、ということです。

私は、一作書くのにけっこうな時間がかかってしまう方です。完璧を目指しているように思います。それでいて、ちっとも完璧になどなりやしない。完璧を目指すよりも締め切りまでにとにかく完成させ、世に問うことの方が大切だと痛感している次第。