杉本純のブログ

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小説アウトロクイズ

イントロ(序奏)の反対はアウトロ(終奏)というそうです。

イントロクイズは、音楽のクイズなどでよくありますが、小説バージョンもけっこうあります。「風の又三郎」や「檸檬」や『坊っちゃん』の書き出しなどは有名なので、よく問題にされていますね。

小説の書き出しがうまい作家を「カキダシスト」、結びがうまい作家を「キリスト」だといったのは宇野浩二です。『宇野浩二全集』第11巻(中央公論社、1979年)によると、宇野はその分類の仕方を、文学書生の頃の友人から聞かされたらしい。

さて、つまり小説には書き出しが印象的な作品もあれば、結びが印象的な作品もあるということです(中盤が印象的なのももちろんたくさんあります)。というわけで、ここではイントロクイズならぬアウトロクイズの小説バージョンをやってみようかなと思います。(ちなみに検索してみたら、小説の終わりの一文をクイズにしているブログがありましたので、この形式の発明者は私ではありません)

何問正解できますか? チャレンジしてみてください。

問題

次の一文で終わる小説のタイトルを答えよ。

① 虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。

② ハヤク、タスケニ、キテクダサイ。/市川太郎/イチカワアヤコ

③ 薄暗い一室、戸外には風が吹暴れて居た。

④ だから清の墓は小日向の養源寺にある。

⑤ 高野聖は此のことについて、敢て別に註して教を与へはしなかつたが、翌朝袂を分かつて、雪中山越にかゝるのを、名残惜しく見送ると、ちらちらと雪の降るなかを次第に高く坂道を上る聖の姿、恰も雲に駕して行くやうに見えたのである。

⑥ 橇は雪の上を滑り始めた。

⑦ 勇者は、ひどく赤面した。

⑧ 老人は額の包みを抱てヒョイと立上り、そんな挨拶を残して、車の外へ出て行ったが、窓から見ていると、細長い老人の後姿は(それが何と押絵の老人そのままの姿であったことか)簡略な柵の所で、駅員に切符を渡したかと見ると、そのまま背後の闇の中へ、溶け込むように消えて行ったのである。

⑨ そして文庫の中へばたりと投げ込んでしまった。

⑩ 私の心はだんだん「秘密」などと云う手ぬるい淡い快感に満足しなくなって、もッと色彩の濃い、血だらけな歓楽を求めるように傾いて行った。

難しいのは③と⑥、⑨あたりでしょうか。

書き出しはそれだけが有名な作品が多いので答えやすいですが、結びとなるとどれも恐らくその問題を読んでいなくては答えられないのではないでしょうか。とはいえ、こうして見ると、最終センテンスに題名かその一部が載っている作品がいくつかあります(そうでない作品も、それより少し前のセンテンスに題名が記されていることがけっこうありました。ちなみに③と⑨も、最終センテンスの付近に題名が書いてあります)。

解答

➊ 中島敦山月記

➋ 夢野久作「瓶詰の地獄」

➌ 田山花袋「蒲団」

➍ 夏目漱石坊っちゃん

➎ 泉鏡花高野聖

➏ 島崎藤村『破戒』

➐ 太宰治走れメロス

➑ 乱歩「押絵と旅する男

➒ 森鷗外ヰタ・セクスアリス

➓ 谷崎潤一郎「秘密」

…んー。まあ、全体的に有名な作品ばかりで、簡単でしたね。

余談ですが、このアウトロクイズ、著作権の消滅していない、あるいは存命の小説家の作品も入れたかったのですが、やめました。というのは、小説の一部をクイズの問題に利用することが「引用」に該当するのかどうか、ちょっとよく分からなかったからです。ちなみに音楽のイントロクイズの場合、原則として著作者の「演奏権」の許諾が必要なのだそうです。小説の場合は朗読なら「口述権」になるそうですが、ネット記事にテキストを掲載する場合はどの権利に該当するのかも、よく分かりません。