杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

江戸川乱歩の若かりし頃

先日このブログに書いた柳川一「三人書房」は、井上勝喜という江戸川乱歩平井太郎)の鳥羽造船所時代の同僚が視点人物の短篇推理小説です。

小説は井上の、やや情緒的な語り口が特徴ですが、その冒頭に乱歩の『探偵小説四十年』の一節が引用されています。「まだ古本屋の商売をどうにかやっていたころ、鳥羽造船所時代の同僚で井上勝喜という、私より二つ三つ年下の男(故井上良夫君のお父さんも、鳥羽時代の先輩社員であったが、それとは別人)が古本屋の二階にころがりこんでいて、これがまた非常な探偵小説好きだったものだから……」とあります。

その引用の後に、「二人」(乱歩と井上)は、探偵小説談義を始めれば時間が過ぎるのを忘れ、読み出した本を途中で止めてデータを共有して犯人当ての推理比べに熱中した、などと続きます。また、お互いに小説の筋を考えて話し合ったりした、といったことも書かれています。

私は上記引用箇所が気になったので、このたび『探偵小説四十年』(沖積舎、1989年)を借りてきて、その箇所を読んでみました。ちなみにこの本、限定500部の復刻本ということで、図書館にあったのはその貴重な一冊ということになります。500ページ超になる大著で、文字がびっちり詰まった3段組みの本ですが、巻末に人名索引がついているので井上の登場箇所を見つけるのは簡単でした。

さて上記の引用箇所ですが、こんな風になっています。

 大正九年(算え年二十七歳)自営の古本屋がうまく行かなくなり、探偵小説の出版を目論むに至ったキッカケを思い出して見る。その前年、まだ古本屋の商売をどうにかやっていたころ、鳥羽造船所時代の同僚で井上勝喜という、私より二つ三つ年下の男(故井上良夫君のお父さんも、鳥羽時代の先輩社員であったが、それとは別人)が古本屋の二階にころがりこんでいて、これがまた非常な探偵小説好きだったものだから、二人で探偵小説の筋を考えたり、今の二十の扉のような遊戯をやったり、部屋の中に小さな品物を隠して、それを推理で探し出す遊びなどをやったものだが、未読の探偵小説を一方が朗読し、データが出揃ったところで、本を伏せて、犯人の当てっこをするのも、そのころの楽しみの一つであった。そんな風にして、二人がてんでんに探偵小説の筋を考えて、それを相手に話して聞かせた中の、私の考えた筋を小説に書いて、どこかへ売りつけようと考えたのである。

なるほど、「三人書房」の記述は『探偵小説四十年』の記述にけっこう忠実であるのが分かります。

数え27歳というともう立派な大人ですが、乱歩は友人とそういう愉快な遊びをしていたんだなぁ、と思いました。私自身のその年齢の時期を思い出すと、同人誌に参加し、その仲間や友達と飲んでばかりでした。