杉本純のブログ

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「二十六夜待ち」成立事情

佐伯一麦の「二十六夜待ち」はすばらしい短篇だが、初出は「群像」2013年2月号で、講談社文庫『12星座小説集』(2013年)の他、佐伯の単行本『光の闇』(扶桑社、2013年)にも収録されている。

『光の闇』の「あとがき」を読むと、「二十六夜待ち」が、16年前に院外処方を受けた喘息の薬の包み紙にしてあった地元紙(河北新報)に、山中で記憶を失った男の話が載っていたことに着想して書かれた小説だということが分かる。

佐伯のエッセイ集『月を見あげて 第二集』(河北新報出版センター、2014年)の「新聞記事の効用」にも、上記と同じような「二十六夜待ち」の成立事情が記されている。また、同書には「二十六夜待ち」という短篇と同じタイトルのエッセイが収録されていて、2012年12月7日に上野の池之端の宿に缶詰になり、年内締め切りの短篇小説を片付けようとしていたことが書かれている。

この短篇小説は「二十六夜待ち」に違いない。まず、小説に描かれる情景とこのエッセイに書かれている情景が似ている。それだけで二つを結びつけるのは強引だが、小説は翌年の「群像」に載ったのだ。「群像」2月号はたぶん2013年1月7日に発行されたから、年内に仕上げてすぐ印刷に回されたのではないか。

もう一つ、『月を見あげて』には「東京駅の化粧直し」というエッセイもあって、佐伯が2012年11月に二度上京したことが書かれている。佐伯は東京駅の混雑ぶりに圧倒されたらしいが、それは同年に復元工事が完了した丸の内駅舎を見に来た人で賑わっていたからだ。これも、同じ情景が短篇に出てくる。

「二十六夜待ち」は、1997年の河北新報記事に想を得て、2012年の年末に一気に形になったのだろう。