杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と明屋書店

佐伯一麦の随筆集『とりどりの円を描く』(日本経済新聞出版社、2014年)の「触読」を読み、味わいがあっていいなぁと思った。

「触読」は、佐伯が仙台から上京したての十八歳の頃に書店員のアルバイトをしたエピソードが紹介されている。書店では毎日必ず担当の棚の本を触ってみるよう教育されたが、今は客として行く本屋でも同じこと(触読)をしている、という内容である。

高橋三千綱北島三郎が客としてやってきたエピソードや、万引きをした少年を本を返してもらっただけで許し、それを上司からひどく責められたことがバイトを辞める遠因になったことなど、本と本屋に関するさまざまな思い出が述べられていて面白い。

なおこの随筆には、勤めた本屋の店名は書いていない。『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫、2005年)の二瓶浩明編の年譜を見ると、上京したての頃にはフリーライターをしながら中野の明屋書店で夜間のアルバイトをしたりしていた、とある。恐らくそこである。