杉本純のブログ

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佐伯一麦の「青空と塋窟」

佐伯一麦『読むクラシック』(集英社新書、2001年)は、佐伯自身がクラシック音楽との関わりについて、自らの生い立ちと共に語ったもの。聖パウロ女子修道会の月刊誌「あけぼの」の1997年1月号から2000年12月号まで、「楽に寄せて」というタイトルで連載した随筆を改稿したものだが、これを読むと佐伯の生い立ちがけっこう分かってくる。

その中の「はじめての同人誌に」には、佐伯が高校時代に参加した同人誌のことが語られている。佐伯は仙台一高の文芸部に所属し、他に水泳部や物理部にも顔を出していたようだ。Sという文芸部の友人がクラシックに詳しい少年だったようで、随筆ではそのSから紹介されたクラシック曲のことと共に同人誌の経緯が紹介されている。

『ショート・サーキット』(講談社文芸文庫、2005年)の二瓶浩明による年譜を参照すると、その同人誌は「青空と塋窟」というもの。「塋窟」はカタコンベ、つまり地下墓所のことだが、埴谷雄高の「橄欖と塋窟(かんらんとカタコム)」から取ったタイトルだと推察できる。なお佐伯は高校時代にすでに埴谷の『死靈』を読んでいた。また、二瓶の他の年譜を見ると、佐伯たちは同人誌を埴谷宅に届けたらしい。

佐伯は同人誌に小説を書いたり、Sとの対談を載せたりしたらしいが、一体どんな内容なのか。また、埴谷の日記や随筆に、仙台の高校生が同人誌を持ってきて…などという記述があるかも、と思うが、今のところ見つからない。