杉本純のブログ

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「チワンのにしき」を再読して

中国の昔話「チワンのにしき」を、恐らく約三十年ぶりに再読した。

別のある本を読んでいて、カタカナの「ロ」が強調されている箇所を読んだ時、そういえば昔、ロロとかロモとかロトエオとかいう人物が登場する話を読んだなぁと、記憶が蘇ってきたのである。

話のタイトルは忘れていたのでネットで調べたら、どうやら「チワンのにしき」というものだと分かり、さっそく手に取った。

借りてきたのは文・君島久子、絵・赤羽末吉の絵本(ポプラ社、1977年)で、私が生まれる前に刊行されたもの。おばあさんが織った美しい錦が風に飛ばされ、三人の息子たちが取り戻す旅に出るが、長男と二男は逃げてしまい、三男が命懸けの挑戦を成功させるという話。

読むと、長男の「ロモ」、三男の「ロロ」はそのままだが、二男は「ロトエオ」でなく「ロテオ」となっている。しかし検索すると「ロトエオ」バージョンもあるらしいので、私がかつて読んだのは君島訳ではないものだったのだろう。たぶん、私が読んだのは教科書だったと思うが、とうぜん訳者までは覚えていない。

話の大筋は、兄たちは冷淡で末っ子だけが愛情があって、最後は母と末っ子が一緒に幸せになって兄たちは不幸になるというもので、ストーリーも教訓も、昔話としてはそれほど珍しくないタイプのものだと思った。普通なら、三十年も経てば忘れてしまうに違いない。いや、現にストーリーもテーマも私は忘れていたのである。

それなのにこの話が今に至るまで記憶に残っていたのは、やはり三兄弟の名前が特徴的だからではないか。ロモ、ロトエオ、ロロという、「ロ」つながりの覚えやすい名前の音が耳から離れなかったんだと思う。ストーリーやテーマでなく、そういう風に記憶される話もあるという証拠である。