杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

支戦場と本戦場

岸見一郎『人生を変える勇気』(中公新書ラクレ、2016年)は、「踏み出せない時のアドラー心理学」というサブタイトルがついている。本書は、生きるなかで遭遇するさまざまな悩みに対し、どのような意識で対処すれば自分らしい人生を進めるか、といったヒントを提供している。

第5章は「職場のイライラ」というタイトルで、その中に上司との人間関係の持ち方が書かれているが、「支戦場」と「本戦場」という言葉が出ていた。

無能な上司は、仕事では認められないので、本来の仕事ではない場面で自分が優れていることを部下に誇示しようとします。アドラーは、無能な上司が自分が優れていることを誇示する場所を「支戦場」と呼んでいます。本来の仕事の場を「本戦場」とアドラーはいっていますが、仕事の場が「戦場」といっていいのかどうかは議論の分かれるところでしょう。ともあれ、上司は自分が仕事では能力がないということを知っているので、部下からそのことを悟られてはいけないのです。

経験から言うと、こういう上司は少ないがたまにいる。飲み会などで部下を威圧するか、あるいは自分の価値観を誇示したり押し付けたりして、自分には逆らえないんだぞと部下に思わせようとするところがある。

その点から、たしかに本書は正しいと思うが、仕事がちゃんとできる、つまり無能ではない人がそういうことをやることもあると、経験から思う。残念なことだが、部下を威圧して屈服させ、言うことを聞かせることで成果を生んでいた時期があったということではないかと思う。

さらに深く考えてみると、仕事がちゃんとできる人が部下に対し威圧するような態度を取っていたのは、実は威圧ではなかったのかも知れない。それは「威圧」というより「厳しさ」だったのかも知れない。