杉本純のブログ

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佐伯一麦『ミチノオク』第三回 飛島

「新潮」11月号には佐伯一麦の連作『ミチノオク』の第三回「飛島」が掲載されている。第二回の「貞山堀」が2月号だったので、実に九か月ぶりの新作掲載である。

「飛島」とは山形県酒田市に属する日本海の離島だが、友人のカメラマンからその飛島で拾ったという小石が送られてくる。しかし、語り手である「ぼく」は、2014年に飛島に行った時、石を持って帰ろうとしたら駄目だと現地の人から固く禁じられた経験があり、友人からの贈り物にいささか困惑する。そこから、2014年の飛島渡航のことを思い返す、というのが今回の主な流れである。

第一回「西馬音内」や第二回「貞山堀」もそうだが、小説というよりは随想風の紀行文とでもいうべき内容で、飛島に関連する柳田國男やSという作家の小説「飛島へ」などの記述と重ねながら、「ぼく」の感慨を綴っている。

「飛島」の冒頭、「ぼく」が2007年の夏にモンゴルを旅行したことが記されているが、そのことは『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「胸を借りる」や「天の河の立てる音」にも書かれている。また飛島に行ったことは『月を見あげて 第三集』(河北新報出版センター、2015年)の「水脈を引く」に書かれている。

作家の「S」は笹沢信である。笹沢の小説集『飛島へ』は、深夜叢書社というところから1994年に出ている。