杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と高田馬場

夏目漱石の妻は、漱石の癇の虫を治す虫封じの護符をもらいに西早稲田の穴八幡宮に行っていたという。佐伯一麦は、それにあやかったわけではなかったが、第一子の夜泣きやぐずりに悩まされていた時、この穴八幡宮に詣でたらしい。

というのも、上京した後に勤めた週刊誌のフリーライター事務所(社名は恐らく「蟠竜社」)が、高田馬場にあったのである。だから神社に足を運びやすかったのだ。そういう過去の体験が、『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「生命の樹を仰ぐ」に書かれている。

高田馬場界隈は、佐伯にとって特別な場所の一つだろう。デビュー作「木を接ぐ」の内容が佐伯の実体験そのままだとすれば、佐伯が最初の妻になる人と出会ったのは高田馬場である。また、週刊誌のフリーライター時代は、苛酷だが多くのことを学んだ期間だったそうで、佐伯自身は「私の大学」と言っている。