杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

現代人の「一般教養」

大室正志『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書、2017年)を読んでいる。電通の社員自殺事件を切り口にした、現代の会社員を巡る労働の情況を考察した本で、納得させられるところが多い。

私自身もクリエイティブの世界での就労経験があり、脳疲労や心身の消耗というものを身をもって感じている。私は、クリエイティブの仕事など第一次産業感情労働を伴う接客業に比べたらずいぶん楽だろうと思っていたが、「脳の疲労」を勘案すると話は違ってくると、最近は考えていた。本書にはその辺りのことがかなり丁寧に書かれている感じがして、まずその点が興味深い。

アマゾンのジェフ・ベゾスが一日八時間寝ているということを紹介し、IT関連の仕事をしている人はよく寝ることを心掛けている、と述べる。またスティーブ・ジョブズマーク・ザッカーバーグが「決断」の機会を一つでも減らすようにし、なかんづくジョブズは禅に関心を示し、シリコンバレーや日本のIT系企業がマインドフルネスを取り入れていると書いている。

脳のコンディションを気にしながら、自分をメンテナンスしていくことは、現代人のある種の「一般教養」になるべきだと思います。

とも書いている。

「寸暇を惜しむ」という言葉が私は好きで、特に二十代や三十代の頃は睡眠時間を削って小説を書いていた。ただ最近は、「寸暇を惜しむ」はともかく、睡眠時間を削って仕事をするのは愚なのではないかと考えている。むしろ、寸暇を惜しむならその日はさっさと寝て翌朝早く起き、頭がすっきりしている状態で仕事に臨む方が良いだろうと。