佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「男と女は五分と五分」は、高山文彦による中上健次の評伝『エレクトラ』(文藝春秋、2007年)を取り上げている。佐伯は本書を、上京した折に編集者から紹介されてむさぼるように読んだようだ。中上は、佐伯に、小説の実作者として生きていく気持ちを抱かせた存在である。
一週間ほどの上京の初日に、編集者から紹介されて読み始め、所用の合間を縫って、駅のホームや駅ビルのベンチで読み継ぎながら、時間に飢えていた昔はよく、こうやって本を読んだり小説を書いたりした、と思った。
とある。この、時間に飢える、という感覚は生意気ながらよく分かる。私は子供の頃に親から言われた「寸暇を惜しむ」という言葉を今も肝に銘じていて、特に学生の頃などは何かに追われるように本を読み、映画を観て、作品を書いていた。ただ今は、寸暇を惜しみつつも、気持ちを落ち着かせることや何もせずぼーっとする時間もかなり大切だと思うようになっている。