杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦の「小さな本棚」

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)を読んだ。佐伯の伝記的事実を確認しながら丹念に読んでいったので、読み終えるまでに時間がかかった。

本書は、河北新報朝刊に2004年4月6日から2008年1月22日まで連載された随筆をまとめたものだ。佐伯の心の中にある「小さな本棚」から愛読した本を一冊ずつ取り出して、それにまつわる思い出などを綴っている。一人の作家につき一冊のみ、新刊書は取り上げない、などが方針だが、例外もある。全100回で完結しているものの、佐伯の読書の傾向と幅広さが見えてくるラインナップになっていると思った。

装幀は中島かほる、装画は柄澤齊。佐伯の随筆の世界を丁寧に作りあげた、センスのいい本である。随筆そのものも、文体に乾いた冷たさが感じられて、いい。とはいえ、100回続く間に味わいは微妙に変わっている。

佐伯の随筆を読むと、佐伯がかなり多方面の様々な人と会っており、活動的であることが分かる。私小説の主人公像とは明らかに違っていて、そういうところがまた面白い。