杉本純のブログ

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ライターのキャリア

以前、タイトルのようなテーマについて人の話を聴いた。その内容はどうということのない、ただその人(ライター)がそれまでどのようなキャリアを歩んできたか、という自己紹介に留まるもので、ライターのキャリアに関する事例や分析を含むものではなかった。

ところで最近、北尾トロ、下関マグロの『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(ポット出版、2011年)を読んでいて、ライターのキャリアについて触れている箇所を見つけた。

ライターの“アガリ”は、専門分野の書き手になるか、作家になるか、編プロ経営者になるかだ

「アガリ」とは双六の「上がり」の意味で、ライターのキャリアのゴールという意味か。専門分野の書き手とか作家などが「ゴール」かどうかは分からないが、ステップアップという意味ではまったくその通りだと思う。

この本を私はまだ全部読んでいないのだが、ライターを長年やってきた身としては興味深い経験談が載っている。

ライターの多くは恐らく、若い頃(20~30代くらいまで)はどんなライティングの注文でも引き受ける、言うなれば「マルチライター」の地位に甘んじて、経験を積むことになる。目標に向かって勉強を重ねると、上記のように、専門分野の書き手(専門ライター)か、作家か、ライターに仕事を発注する側の編プロ経営者(広い意味で編集者)になるだろう。私が見てきたライターの半分はそのどれかの道に進んでいる(年齢などが原因で精神的にも肉体的にも辛くなって次の道を探すことになる者も多い)。

もう半分は何かというと、これが上記にはない進路なのだが、「転向」である。つまりライターの延長線上にある仕事に進むのではなく、「新しい仕事」をやり始めることだ。

ちなみに上記引用で言うと「作家」は「新しい仕事」であり、ライターの延長線上の仕事ではない。ただ「書く」業務をするという共通項があるので延長線上にあるように見えるのだが、ぜんぜん違う仕事である。それと同様に、例えばライター仕事を通して広報の仕事に携わったから、その経験を活かして企業の広報の仕事に就く、といった道がある。それらはいずれも「転向」であり、とはいえまったく無縁のところに行って人生をやり直すわけではないのだ。

もちろん、40代になっても50代に突入してもマルチライターを続けている人は、いる。私が見たフリーライターは大半は子育ての一段落した主婦で、そういう人たちは、言っちゃ悪いが一家の大黒柱でもないので薄給のライター職に甘んじ続けることができるのだと思う。中には40代の独身女性や60くらいの男性でもフリーのマルチライターという人も、いた。