杉本純のブログ

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喪失と獲得

「喪失と獲得」という言葉がありますが、何かを失った人間が、何かを得ることによって一つの物語が出来上がる。そんな物語を人は求めているのじゃないでしょうか。

と、大沢在昌『売れる作家の全技術』(角川書店、2019年)の中で語られている。
「喪失と獲得」は、ニコラス・ハンフリーという人が書いた本として存在しており(紀伊國屋書店、2004年)、人間心理に根差した物語論としても読めるのかも知れない。ただし、大沢在昌がこの本を念頭に置いて話したかどうかは不明。

一篇の物語を、人間の意識や行動の流れの一つの型として捉えようとする考えは少なくない気がする。神話学者がそういう研究をしているはずだし、「行って帰る」という図式で捉える人もいたと記憶する。

「喪失と獲得」という形は、分かりやすいと思う。何らかの欠落を埋めるために行動し、獲得できるかどうかというところがクライマックスになるのだろうか。

そういえば私が最近書きあげた小説は、喪失を埋める何かを獲得しようとしてもついに何も摑めなかった話で、私小説というのは「喪失と未獲得」という図式で語れるかも知れないな、と思った。