杉本純のブログ

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倉木まり恵とベティ・ブープ

最近までベティ・ブープを知らなかったのだが、このたび大江健三郎『人生の親戚』(新潮文庫、1994年)を読み、主人公の倉木まり恵が「ベティ・ブープの面影」を感じさせる人物として書かれているので、ベティ・ブープを調べてみて「ああこのキャラか」と思った。キャラを見たことはあったが、それがベティ・ブープと呼ばれるのは知らなかったのだ。

小説の登場人物を実在の人物に似ているとして書いた例といえば、すぐ谷崎『痴人の愛』のナオミ(メアリー・ピックフォード)が思い浮かぶ。これはこれで、ナオミの姿を想像するのに都合がいい。他にも例は多数あるだろうが、パッと出てこない。

一方のベティ・ブープは実在人物でなくキャラクターなので、ではリアリティを減じる結果になったかというと、そんなことはなかった。ベティ・ブープそのものが誰かをモデルとしたキャラクターだったはずだし(ヘレン・ケインという歌手がモデルらしい(Wikipedia))、ベティ・ブープのような外見と雰囲気をたたえた女性を私は見たことがあると思う。

小説の登場人物を、実在・非実在に関わらず一般に知れ渡っている人間に似ているとして書くのは、利益はあっても損はないような気がする。否、ようするにそのやり方の成功と失敗は、比喩の成功と失敗と似たようなものだと思う。もし、誰々に似ていると書いて読者が違和感を抱いたら、それは方法が悪かったというより、作家の例の選び方が不味かったということだろう。