杉本純のブログ

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「社員は家族」

もうずいぶん前の話になるが、ある会社の経営者が、社員は俺の家族だ、と言っていた。その人は一方で、労働組合が嫌いだ、とも言っていた。経営と組合を対立構図で捉えていたのかもしれない。

しかしその経営者は、自分の会社の社員が通勤中に事故を起こし、四十日も入院したのに、「お前は勝手に事故を起こして入院したんだ!」と怒鳴り、労災の手続きをしようとしなかった。

社員を自分の家族だと思っているなら、通勤中だろうが私的な時間だろうが、事故を起こしたら入院費も治療費もふつうは出すはずである。私は自分の家族が事故を起こしてお金がないと言ってくれば、できる限りのことをする。しかしその経営者は社員に対し、労災の手続きをせず、助けようとしなかったのだ。

もっとも、その社員はその会社の正式な社員ではなく(事実上の常駐のフリーランスだった)、会社としては入院代や治療費を保険で出すことができなかったので、経営者はそういう突っぱね方をしたのである。その社員は実は自分が正社員ではないことを知らなかったので、泣き寝入りをして、ようするに単なるバカなのだが、経営者はその社員に対しても「お前は俺の家族だと思っている」と言って手なづけていたのである。

何事もない時には「お前を家族だと思っている」とか言っておいて、いざという時には他人のツラをするのは悪質な欺瞞ではないか。

上記のエピソードは例として良くないが、経営者が言う「社員は家族だ」式の言葉は、少なくとも社員側は眉唾と思って聞いて損はなさそうである。それはやはり、家族という関係は仕事の関係を超えるものであり、仕事の関係をそこまで深くするのは容易ではないと思うから。もちろん、経営者と社員たちが家族のような間柄になっている会社が存在しないと言うつもりはない。

白状すると、上記の「社員」は私である。