杉本純のブログ

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松本清張『風紋』

松本清張『風紋』(光文社文庫、2018年)は、食品会社の看板商品に不穏な噂が立つ企業サスペンス。「現代」に1967年1月から1968年6月まで「流れの結像」というタイトルで連載されたというので、清張58歳の頃の作品になる。

語り手は小説家本人で、食品会社の元社員である視点人物から伝聞したことを小説に仕立てた、という構造。清張が崇敬した森鷗外『雁』に近い形だが、他にもこういう構造は多くあるはず。

食品会社の社史を編纂する仕事を与えられた社員が、その仕事を遂行するうちに、会社の看板商品に関する疑惑が浮かび上がる。社史編纂の話は小説の主たる筋から外れていき、疑惑の行方と、その中枢にいる人物の動向に焦点が絞られていくのだが、最後は小説家と視点人物(食品会社社員の後に編集者になった)の対話で真相が明かされてあっけなく幕が下ろされる。犯人というほどではないのだが、小説ではさほど言及されていなかった人物が疑惑の一番後方にいた、というのが真相。

最後があっけなくても、それまでの過程がサスペンスとしては十分面白い、ということはあるだろう。この作品も、序盤から中盤へかけては叙述も描写も分厚くて読み応えがあった。しかし、最後のあっけなさによって急に白けてしまった。

けれども、企業という一つの組織の中にいる人間たちとその関係、看板商品の疑惑という題材は面白く、全体としては楽しかった。なるほどこういう書き方をすると会社という世界を舞台に一個の小説を書くことができるんだなと思った。

ちなみに私は飲料会社の社員を主人公にした小説を書いたことがある。