杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

社内報の世界

昔も今もさほど変わらない

若竹七海『ぼくのミステリな日常』(創元推理文庫、1996年)を読んでいます。

主人公は真田建設コンサルタントという会社に勤める、作者と同名の若竹七海という女性で、つまらないので会社を辞めようと思っていた時、社内報を創刊するので編集長になるよう命令を受ける。さらに、社内報に柔らかい記事を載せるよう指示され、小説を、と言われたが書き手がいないので困ってしまい、大学の先輩に手紙でお願いしたところ、ミステリ風の作品を書く知人を紹介され、匿名という条件の下、その先輩経由で毎月短篇を受け取り、社内報に掲載することになる。そのような設定で始まる短篇集です。

中身は、若竹と先輩のやり取りの手紙がそのまま本文としてプロローグに使われ、本篇は匿名作家による小説がそのまま掲載されます。まだ全部読んでいませんが、いわば劇中劇の設定です。それを手紙文だけをそのまま掲載するだけで説明しているのは巧いと思いました。

真田建設コンサルタントの社内報は「ルネッサンス」という誌名で、創刊は1990年4月。なんとなく、時代を感じさせますね。

匿名作家の短篇の前に1ページを使い、それが掲載された号の目次が載っています。建設会社の社内報らしく、業界の現状について話し合う討論会やプロジェクトの紹介、支店の紹介、社員の趣味やエッセイや編集後記などで構成されています。恐らく、作者の若竹は当時そういう内容の社内報を読んだのでしょう。私は最近、ある会社の社内報を見る機会がありましたが、構成は「ルネッサンス」似たようなものでした。細かいところではいろんな変化がありますが、大きくは変わっていないのかなぁと思いました。