杉本純のブログ

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町田哲也『家族をさがす旅』

町田哲也『家族をさがす旅』(岩波書店、2019年)を読んだ。

これは、証券会社社員であり作家でもある町田が、緊急入院した父の事績を色んな関係者に取材して回る、という内容で、第一章から第四章までは「現代ビジネス」2018年2月1日から8月9日に連載され、第五章とエピローグは本書のために書き下ろされたものである。

父がかつて働いていた岩波映画や映像業界の人たちの名前が多数出てくるだけでなく、著者自身が会社員をしながら小説を書いているということで、いろいろ興味深い。

特に、表現者を志す者が、糊口をしのぐためにしている仕事に追われてしまい肝心の表現ができなくなることの苦痛を、町田が自分と父を重ねて述べているところ、ぐっとくる。

私も家族の事績を辿って関係者に取材をした経験がある。その過程は、家族のことを知ろうとする行動の軌跡でありながら、自分自身のことを知ろうとする思索でもあったように思う。むろん、対象が家族でなくとも、知ろうとする行為の根源にはそういう自分探しめいた側面があるものなのかも知れない。日本映画学校(現日本映画大学)の今村昌平による「理念」に、人間を真剣に問い、それを問う己は何なのかを反問してほしい、といった言葉があるのを思い出した。