原武史『レッドアローとスターハウス』(新潮文庫、2015年)に、板橋区に住んでいる私には興味深い記述がある。
団地は高層化し、コンクリートの壁はますます高くなり、住民の関心は「公」よりも「私」に向かう。同年五月に発刊された団地住民向けのタウン紙『団地新聞高島平』(現・『高島平新聞』)で、女性の乳房、目、眉、唇、アゴ、ホホ、耳の形や大きさなどからセックスや性感を占う「プレイロッド」が連載されたのも、こうした傾向と無縁ではあるまい。
高島平団地の入居が始まったのは1972年で、引用した中に「同年」とあるのはその年を指している。私は今の「高島平新聞」を毎号欠かさず読んでいるが、約50年前に新聞にそんな記事があったとは…である。
同じ原武史と重松清の対談『団地の時代』(新潮選書、2010年)にも「プレイロッド」に関し言及している箇所がある。「対話Ⅲ 左翼と団地妻」の「団地妻はなぜ浮気をするのか」という見出しの中で原が重松に紹介しているのだが、そこには「団地新聞高島平」の掲載年月まで書かれている。
「プレイロッド」と、不倫のイメージで語られがちないわゆる「団地妻」が、実際にどういう関係にあったのか、分からない。ただし地元新聞にそういう占い記事が載っていたというのだから、背徳的なものではなく、もっとおおらかで明るい感じがしなくもない。