杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦の高校生活

佐伯一麦のエッセイ集『月を見あげて 第三集』(河北新報出版センター、2015年)が面白い。これは河北新報夕刊に週1回連載している佐伯のエッセイを編んだもので、この第三集は2013年9月から2015年2月にかけて、141回から212回までを収めている。

このブログで以前、佐伯が高校二年の秋に級友と金沢に旅行し、徳田秋声の文学碑を訪れたことを書いたが、本書の「敦賀の月」を読んで、恐らく同じ旅行の途上で新潟の糸魚川に寄ったいきさつが分かった。

私が通った高校は、修学旅行がなかったので、その代わりにと、前期の試験が終わった試験休みに金沢、京都を旅行したのだった。糸魚川に親戚がいる者がおり、途中下車したのに付き合って、彼の用が済むまで、テトラポットに打ち寄せる茫漠たる日本海を半日ほど眺めていた。

べつに何ということはない、仲のいい同士との旅先での様子なのだが、いいなあと思った。佐伯が通っていた県立仙台一高は宮城県進学校で、この旅行や、仲間と同人誌を作ったことなど、わりに知的な好奇心を満足させていた楽しい高校生活だったように思える。

高校を出た佐伯は上京して、そのあと辛い労働者生活が始まる。週刊誌ライターなどをしてそれなりに面白い体験をしていたはずだが、長く電気工として、子供もできて働くばかりの生活を送るのである。その過程にはどんなことがあったのか。佐伯の私小説からある程度類推することはできるが、実人生の事実としては、高校時代から上京後の生活の過程にはまだ知らない事実も多く、興味深い。

ちなみに私も、愛知県の私立高校に通い、仲間と京都などに旅行したことがある。頭の悪い学校だったが、学園祭では好きな映画を上映したり、友人と自作の漫画を見せ合ったりしてけっこう充実していたと思う。大学に入ってからは働いてばかりの暗い生活だったな。