杉本純のブログ

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「昔は良かった」

先日ある人と酒を飲んでいた時、その人が、今の時代が窮屈で何かとやりづらいことを述べた後、「昔は良い時代だったよなぁ~」と言った。

私はそれを聞いた瞬間、「おお出た出た『昔は良かった』!」と心の中で思った。しかし、どうやらその人も「昔は良かった」式の物言いが揶揄の対象になるのを半ば悟った上で言っていたようにも感じた。

しかしそれでもそういう発言が出るということは、現在を十分に生きられず、過去を懐かしんでいる証拠だ。

私自身、かつては精神論を信奉し、また文学や映画は今より昔の作品の方が(昔に作られたという理由からのみ)優れたものだと考え、かつての時代を今より優れた時代だと思っていた。ごくおおざっぱに、新しいものは流行を含め新しいという理由からのみ否定していたように思う。

要するに私も「昔は良かった」と思っていたわけだが、それではけっきょく何も前進させられないのを悟った。さらに、勉強して近現代史をはじめとした歴史の知識が身に付いてくると、「良かった」時代など実は今まで無かったことがわかった。また、昔と今を比べるなら今の方が相対的に良いということも知った。だから今はもう「昔は良かった」などと口にすることはない。ただしもちろん古典的なものにも接する。

「昔は良かった」式の発言をする人は、その人生が現在停滞して突破口を見出せずにおり、なおかつ良かった時代など実はなかったこと、相対的には昔よりも今の方が良いということを知らないのだろう。言わば生きる化石である。