先日、佐伯一麦の「プレーリー・ドッグの街」(初出:「新潮」1989年6月号)についてこのブログに記事を書いたが、書くために当該作をぱらぱら読んでいたら別の発見があった。
初読時は何気なく読んで通り越しただけだったが、主人公が高架水槽で作業をする場所に、詩の一節を思い出す箇所がある。
電柱やビルの屋上のふち、建築現場の足場の上などという高い所で、澄み渡った青空を眺めていると、ふとそっちの方に吸い込まれてしまいそうになることがある。
《空は屋根の彼方で
あんなに青く、あんなに静かに
樹は屋根の彼方で
葉を揺がす
ああ神様、それが人生です》
いつだったか、仕事が休みのときによく行く図書館で偶然この詩を見つけたときに、おれは、あのときに感じる不思議な気持にあんまりぴったりなので驚いた。それ以来、この短い詩は、おれが暗誦できる唯一の詩だった。
この詩は何だろう、と思ったのだが、詩のフレーズでググってみたら、どうやらヴェルレーヌの「偶成」らしいことがわかった。この詩は永井荷風ほか複数の人が訳しているようだ。だが上記引用が誰の訳なのかは分からない。