杉本純のブログ

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復讐

吉行淳之介ベスト・エッセイ』(ちくま文庫、2018年)の「私はなぜ書くか」は、グレアム・グリーンの「復讐」という短篇を中心に、トーマス・マン萩原朔太郎の言葉なども引用しつつ、文学を必要とする人には人生に対し「復讐」しようとする心を持っている、といったことを述べている。

逆に、文学を必要としない人とは「けっして悩まず、うしろを振返ってみることもなく、ダイヤモンドのような頑丈な心を持った人たち」であると、マンの言葉を引用した後に述べている。

要するに、繊細で傷つきやすく、誰かに虐げられ、それへの復讐を遂げようと闘志を燃やしている人、が文学をやるのにふさわしい人だということだろう。

私自身に置き換えてみると、復讐したい奴は、いくたりかいる。仕返ししてギャフンと言わせてやりたいわけだが、それが文学への動機になっているかというと、ちょっと違う。面白い話を書きたくて筆を執っているという方がしっくり来る気が、今はしている。