杉本純のブログ

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いかに事実に近づくか

矢作勝美の『伝記と自伝の方法』(出版ニュース社、1971年)によると、インタビュアーの全質問の30〜40%はインタビュイーが知らないことであり、インタビュイーの63%が知らないにも関わらず断定的に答えるらしい。矢作は堀川直義の『インタビューの研究――その心理学的基礎実験』(朝日新聞調査研究室報告、1952年)にそう書いてある、と紹介している。

私は普段はインタビューをする側だが、過去に数度、インタビューを受けたことがある。その場では嘘を吐いたつもりはなかったが、もしかしたら知らないことを断定的に答えたかもしれない。ただ、もちろんきちんと主観と客観は使い分けたつもりので、大きな問題はないと思う。

さてそれとは別に、インタビューを受けた時に改めて感じたのが、質問者が相手からきちんと話を聞き出したいなら、相応の準備と配慮が必要だ、ということ。

まず、話を聞く前の地ならし。インタビューの目的、企画・記事の方向性、原稿をまとめて発表するまでのスケジュール(インタビュイーが原稿をチェックできるかどうか)などを伝え、全体を掴んでもらってから質問に移る方が良いだろう。そして、質問にきちんと答えてもらうために、相手が話しやすい環境を整える。ゆったり話し合える位置関係にしたり、飲み物を用意したりすることも大切だろう。ちなみに私は以前やたら寒い部屋でインタビューを受け、質問内容がきちんと頭に入ってこなかったことがある。

インタビューの内容にもよるが、相手の話を無表情で淡々と聞いているのは基本的に良くないと思う。人間、感情が盛り上がることで次から次へと話が出てくることはよくある。しかし相手が無表情だと石に向かって話しているようで、興が削がれてしまう。相手の目をよく見て聞き、相手の感情に反応するように相づちを打つ。愛想ばかり良くてもダメだろうけれど、「あなたの話を興味を持って聞いています」という気持ちを伝えることで、相手も積極的に話してくれるようになるのではないか。

世の取材は、その目的、シチュエーションが様々であり、決して一般論が成立しない世界だが、「いかに事実に近づくか」を考えると、概ね上記のことが当てはまる気がする。