杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

書くに値する街

ウィリアム・フォークナーアブサロム、アブサロム!』(藤平育子訳、岩波文庫、2011年)の藤平による「解説『アブサロム、アブサロム!』への招待」の冒頭には、ヨクナパトーファ郡ジェファソンを舞台にした最初の小説『サートリス』について、フォークナーが「小さな郵便切手ほどの私の生まれ故郷が書くに値する」と語ったことが紹介されている。地図上では郵便切手ほどしかない小さな街が、物語の題材になり得ると思えたということだ。

『アブサロム』を初めて読んだのがいつだったか、忘れてしまったが、上記の箇所には感銘を受けた。私はそれまでも生まれ故郷や、その時に住んでいた地域を舞台に小説を書いたことがあり、我が意を得たりという気持ちだったのだ。

そして近ごろは、生まれ故郷ではないが自分が住んでいる街を舞台にした小説を書きたいという思いがふたたび高く頭を擡げている。近所にある変わった形の建物や、ユニークな住人、地元の歴史や伝説などを知って、これを小説に登場させたいな、と思うことが多い。年末年始の休み中、目下の仕事が完全に手元を離れている状態で、家族と一緒にゆっくり駅まで歩いたり、公園に出掛けて遊んだりした。いつもの逸る気持ちがない状態で周りを見渡すと、街のそこかしこの風物がいつにも増して親しく感じられたのだ。

これらは「書くに値する」。あとは、そこにストーリーがあればいけそうな気がしている。

f:id:atsushisugimoto:20190113224310j:plain