杉本純のブログ

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ニュートラル

佐伯一麦の随筆集『月を見あげて 第二集』(河北新報出版センター、2014年)の「執筆五分前」には、以前ある文藝雑誌に「執筆五分前」という連載コラムがあったと書いてある。そのコラムでは、小説家や漫画家などの作家が、筆を執る前に習慣的にやっていることを交替で書いていたようだ。なんという雑誌だろう。

佐伯は三浦哲郎古井由吉のエピソードを紹介しており、自身は、窓から雑木を眺めて書くことが浮かんでくるのを待ったり、ベランダで包丁を研いだりするなどと書いている。

それらを読んで私は、誰もが良い状態で書き始めるには自分の精神をニュートラルにする必要があるのだろうと思った。私自身、小説を締め切りに間に合わせるために書くぞと焦るとどうもダメで、きちんと書くには締め切りとかに煩わされない心境にならなくてはいけないと感じたことがある。もちろんこれは、だから締め切りなど守らなくても良いという意味ではない。

精神をニュートラルにするための習慣的な行為というのは、今の私にはない。強いていえば、自分の机の上を掃除することだろうか。机の上に書類や道具が載っていると、それはそこに在るだけで何らかの「意味」を発しているように思われ、執筆に集中する上ではノイズになる。周りにできるだけ物がない状態にするのが良いと思う。