宮原昭夫『増補新版 書く人はここで躓く!』(河出書房新社、2016年)はときどき部分的に読み返している。小説を書いて行き詰まることが多く、その原因を探るとだいたいこの本に書いてあるのだ。
その中で、「『芝居』と『役者』」という章にこんなことが書いてあり、ハッとさせられた。
苦悩が人物を魅力的にするのではなく、人物の魅力が苦悩を魅力的にする
以前読んだ時、私はこの箇所の意味がよく分からなかったが、先般デフォーの『ロビンソン・クルーソー』を読み、その意味がちょっと分かった気がする。
デフォーはクルーソーを魅力ある人物にするためか、小説の冒頭で、本人のどうにも抑えきれない冒険への憧れを描いている。またこの小説はクルーソー自身の一人称で書かれているのだが、その書き出しには本来の名前「クロイツナーエル」がイギリスによくある訛りのために「クルーソー」になった、というユーモラスなエピソードが紹介されており、その部分は大岡昇平も『現代小説作法』(文藝春秋、1962年)で巧いと述べている。