杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

一期一会

最近、ある会社のテレビCMを見ていた時、ハッとした。

ある大手企業のCMだったのだが、その会社の社員が複数出ていて、なんとその中に、私がインタビューしたことのある人が出ていたのだ。

会ったのはたしか十年近く前で、その時点で五十歳は過ぎていると思しい大ベテランだった。すると今はとうに六十を超えているのかも知れないが、顔つきなどは当時の記憶のままでまったく老けたりしていなかった。ある大きな機械の管理やメンテナンスをするエンジニアだったが、「考え方」とでも言うべきことを「思想」などという言い方をしていて、面白かった。

私は、印象に残った取材相手のことは今でもけっこう覚えている。CMの方もその一人なわけだが、私がもう一度その人たちに会うことは、恐らくないだろう。

取材は一期一会だ、というのが取材に臨む時の信条の一つだ。私の場合、取材相手と話す時間は長くとも一時間足らずで、それ以上その人と話すことはまずない。そして、取材が終わってお疲れさまでしたと別れたら、恐らくもう一生会うことはないだろう。それが取材だと思っている。

もちろんライターの中には一人の人物に何度も取材をする人もいるだろう。しかし私の場合は、まずほとんどの取材が一期一会だ。

べつに、だからといって気合いを入れようとか、仕事を通しての出会いがことさら劇的だとか美しいとか考えているわけではない。CMの人にしたところで、私はたまたま覚えていただけだといえば、その通りだ。

ただ、同じ仕事を続けているとどうしても惰性でやりがちになってしまう。仕事に神経を細かく注ぎ、相手の話すことをきちんと受け止めるための心構えとして、私は一期一会、つまり相手との時間は一生に一度の貴重なものだという事実を噛みしめるようにしている。