杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

情熱の強さゆえに破滅していく人

ゴリオ爺さん』(高山鉄男訳、岩波文庫、1997年)は、フランスの小説家・バルザック(1799-1850)の代表作の一つである。

王政復古後のパリ(19世紀初頭)を舞台に、田舎出の青年・ラスティニャックが社交界へ出世してゆく過程と、老人・ゴリオが2人の娘に見捨てられ、破産し、怨恨と悲嘆の言葉を連ねて死んでゆくまでを、ドラマティックに描いている。

青年が出世の途上で手に入れようとする女性が老人の娘であったりして、主人公二人の行動は密接にリンクする。

複雑な人間関係を描く心理描写と、物語の舞台となる下宿屋「ヴォケェ館」を家具調度類の素材に至るまで詳細に書く情景描写、そしてそれらを一挙に牽引し、長大な物語として語ってゆく構成と叙述は、いずれも溜め息が出る見事さ。

本作は、壮大なフランスの社会全体を描くバルザックの小説集「人間喜劇」の一作で、ラスティニャックやその他の人物も他作品で再登場する。

こうした小説技法は、日本では松本清張山崎豊子高村薫や最近なら阿部和重エピゴーネンとして実践しているそうな。

過剰なまでに娘を愛し、それゆえに自滅してゆくゴリオが、冷厳な眼差しの下に描かれている。情熱の強さゆえに破滅していく人、というのはバルザックならではの素材だと思う。