杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

実存と構造

三田誠広『実存と構造』(集英社新書、2011年)をざっと読んだ。この人の「ワセダ大学小説教室」が面白かったので、本書も手に取ってみたのだ。

前半は実存主義構造主義の流れを辿るヨーロッパの思想史のようになっていて、後半では大江健三郎中上健次の小説を論じている。

全体に、やや書き流している感じがあり、これなら『深くておいしい小説の書き方』の方が大江と中上の作品についてはよく論じられていると思った。

自分は世界にたった一人の孤独な存在(実存)だが、自分だけの固有のものと思われた悩みや苦しみは、遠い昔から繰り返されてきた(構造)。

誰もが人に言えない悩みや苦しみを持っているが、若い人は、それを世界における唯一事のように考えている、と三島由紀夫が言っていた。何について言ったのかは忘れたが、これは構造と実存についてよく言い表した言葉ではないかとこの本を読んで思った。

若い人は自分を絶対視しているが、大人は自分を相対化している。絶対(実存)と相対(構造)。年齢的に大人になっても、絶対的な自分を捨てられない人がたまにいる。私もだ。