杉本純のブログ

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HSPの仕事

本書が「原液」かも

エレイン・N・アーロン『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(冨田香里訳、SB文庫、2008年)を読んでいます。

これは、2000年に講談社から刊行された同名の単行本を文庫化したもの。書名の「あなた」はHSP(とても敏感な人)を指し、私はこれまでいくつもHSP本を読んできましたが、いずれの本もアーロン博士がその存在を明らかにした、と書いていました。つまり、世のHSP本の嚆矢と呼ぶべき一冊ではないかと思います。

ただし、「HSP」という語自体はアーロン博士がつくったものの、例えば本多信一の「内向型人間」などはほとんどHSPと同義と考えてもいいのではないかと思えるほどで、それはHSPよりはるかに前に出ていた言葉ですから、HSPはその言葉以前にも存在していたことになります。当たり前ですが。

私が本書で特に興味があったのが第六章「HSPの仕事について」です。読んでいて、胸にぐさりと刺さってくる文章がところどころにあります。率直に言って、これまでに読んだHSP本はかなりライトだったなぁ、という気がします。というよりも、本書が「原液」で、派生本は一般に普及させるためにいくらか「希釈」させている、という感じでしょうか。

「自分の喜び」だけではダメ

同章の「お金のための仕事と天職」という見出しの後には、次のような文章があります。

 では、天職に就いてお金を稼ぐにはどうすればいいのだろうか?
 それには、「自分の喜び」と「世の中のニーズ」との接点を探すことだ。この接点が見つかれば、あなたは好きなことをしてお金を稼ぐことができるだろう。

アーロンはその文章の前に、「実際的なことを考えなくてすむなら、HSPはたちまち『浮き世離れした人』になってしまう」と書いています。「実際的なこと」とは、この場合、自分の喜びと世の中のニーズとの接点を探すことと言えます。このくだりは深く身に覚えのあるところです。私自身、自分の適職を考えた時、文学研究とか連作私小説とか、いつも「自分の喜び」にばかり目を向けてしまい、有名作家にでもならない限りまずお金になりそうにない、と思ったものです。世間のニーズなどとはあまりに遠く隔たっていたのでした。