杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

グラン駅の雪

「群像」2021年5月号の「小特集・旅」には「アンケート 思い出の駅」があり、五十一人が駅にまつわる思い出を寄稿している。その一人に佐伯一麦がいて、佐伯はノルウェーのグラン(Gran)駅という小さな駅にまつわる思い出を綴っている。

佐伯は1995年から翌年にかけて、四度にわたりグランを訪れた。その近くの丘陵地にあるホテルのエントランスに「サマーウィンド」というテキスタイル作品があり、その作者ビヨルグ・アブラハムセンの人生と作品をめぐるノルウェーへの旅を四季ごとに重ねていたのである。

その最後の冬の再訪の折、グラン駅のホームで降りてくる雪の一片を掌に受けると、雪がそのまま結晶になっているのを目にすることができた。雪は天から送られた手紙、という言葉を思い出しつつ、故人であるビヨルグに宛てた書簡体小説を構想していた…という内容。雪、手紙、書簡体小説。巧いこと符合している。