杉本純のブログ

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逗子に住んでいた佐伯一麦

佐伯一麦『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)の「名曲喫茶『田園』」には、佐伯が脚本家の内館牧子と対談した時のエピソードが紹介されている。エピソードとはむろん、仙台市青葉区国分町にあった名曲喫茶「田園」のことで、内館がその店の経営を任されかけたが結局やらなかった、というもの。内館の話がカギカッコをつけて引用されている。

その対談とは、潮出版社の「潮」2012年6月号に掲載された、対談「東北の『故郷(ふるさと)』を取り戻すために。」に違いないが、今回、その対談記事を読んでみたものの、「田園」のことについては書かれていなかった。カットされたんだろう。

「東北の『故郷(ふるさと)』を取り戻すために。」は、震災後の東北復興をめぐる、東北ゆかりの二人によるざっくばらんな対話である。お互い、自身の生い立ちや震災時の状況などを語っている。震災と復興に関する話ながら、深刻なことは少しもなく、気軽に読める。震災は大きな悲劇だったに違いないが、復興もまた大変であるものの、余計な意味づけや価値づけなど不要だというのが二人の見解として一致していると私には読めた。

ところでこの対談で佐伯は「僕は一年ほど神奈川県の逗子で暮らしたことがあるのですが」と言っている。佐伯はデビュー前後に東京・神奈川でかなり転居しているのだが、逗子にも住んだことがあるとは知らなかった。