杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

出所不明本

長い読書生活の中で、色んな本に出会ってきた。我が書架には、本屋で買った新刊書もあれば古書店で買った絶版本はもちろん、珍書奇書の類いもある(珍書奇書だから所有しているわけではない)。人から貰った本も少なくなく、借りている本もある。不揃いの全集の中には端本を人に譲ってしまったもあり、他にも大事に取っておいたのに人に貸したまま消えてしまった本も、一冊や二冊ではない。

出所不明本というのもある。逢坂剛『幻のマドリード通信』(講談社文庫、1987年)はその一冊で、架蔵して久しいが、一体どこでどうやって手に入れたものか、覚えていない。逢坂は直木賞作家で、本書は国民軍がスペイン内戦に勝利した1939年、マドリード日本大使館から黒こげ死体が発見され、金庫には日本外交史上まれに見る恐るべき事実が隠されていた、という話である。しかし私は逢坂をよく知らないし、まず自分で買った本ではない。

となると誰かから貰った本に違いなく、そうなると、該当する人物は両手で数えられるくらいに絞られてくる。多分あの人だろうと予想できるが、確定的ではない。確かめてみたい気もするが、わざわざ連絡するほどでもない。

そんな本は他にもあり、今後、真相を思い出せないまま予想の相手が亡くなる、という事態も起きるだろう。本を通して色んな人と関わってきた人生では、そういうこともある。