杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

山崎豊子とバルザック

新潮社編集部編『山崎豊子読本』(新潮文庫、2018年)は同社の山崎豊子ガイドブック(2015年)を文庫化にあたり大幅に編集したものだが、山崎の作品の背景や関連性を取材したガイドブックであり、山崎の作品をそんなに読んでいない私でもとても興味深い本である。一人の作家について、伝記的事実も含めてこれくらい縦横に調べて本にするのは、私もやってみたい。

作品ガイドの『運命の人』の節では、山崎が晩年に繰り返し語ったという戦時中の体験について書かれている。

大学二年の時に学徒動員令で軍需工場に動員され、弾磨きをさせられたが、体調を崩して休んでいる時、持ち込んでいたバルザック谷間の百合』の文庫を読んでいたら将校に見つかり、敵国の本を読んでいる非国民、と怒鳴られ、平手打ちを食わされた、とある。

山崎豊子バルザックの作風に影響を受けた、という話はどこかで聞いたことがあるが、少なくとも大学時代に『谷間の百合』を読んでいたわけである。

1924年生まれの山崎は旧制京都女子専門学校(現・京都女子大学)を1944年に卒業している。大学2年の頃は西暦何年なのか。しかし、私の手元にある『谷間の百合』文庫は宮崎嶺雄訳の岩波文庫で、1994年改版のものだが、宮崎の解説を読むと初訳は昭和15年(1940年)とあるので、山崎が誰の訳で読んだのか分からないが宮崎訳の文庫が山崎の大学時代にすでに出ていたとしても不思議ではない。