杉本純のブログ

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「貧しき縁者」とミケランジェロ・カエターニ

バルザック『従妹ベット』(水野亮訳、岩波文庫、1950年)を読んでいるのだが、この作品は上下巻から成る大作で、『従兄ポンス』と共に「貧しき縁者」というタイトルが付けられている。『ベット』は「貧しき縁者」の第一話で、『ポンス』は第二話である。

私は『ベット』も『ポンス』も読まない内からこの「貧しき縁者」というタイトルの、なんとも言えない意味深な響きが気に入っていた。それに少なからず影響されて、私自身が構想している小説の中の、とても強い熱誠を持った男が登場する二篇について、「喧しき男」というタイトルをつけて姉妹篇にしたい、などと考えたものだった。まあ、これは余談である。

さて『ベット』冒頭の「貧しき縁者」という短い文には、バルザックがこの二篇を「テアノ公ミケランジェロ・カエターニ閣下」という人に捧げる趣意が記されている。

調べてみると、カエターニ(Caetani)家は中世イタリア・ローマの有力貴族の家系であるらしい。19世紀にはスタンダールバルザックとも親交を持ち、中でもミケランジェロという人は文人で、ダンテ研究を著した人として有名であるそうな。「貧しき縁者」にはカタエーニのことを「ダンテ註釋家として至つて造詣の深いあなた」と書いていて、バルザック自身がカエターニからダンテの詩の思想的骨組みを会得させてもらったことが書かれている。

研究家のことを「註釋家」と書いていることに、強い納得感がある。