杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

要するに「面白い」かどうか

田島隆雄『読者の心をつかむ WEB小説ヒットの方程式』(幻冬舎、2016年)を読んだ。

私が最初にWEB小説を書いたのは2005年だと記憶しているが、あるサイト内の一コンテンツとして掲載したのであり、投稿サイトに投稿したのではなかった。

当時、私はある文学同人に所属しており、同人の一人から、ネット小説を書くなどけしからん、みたいに言われたことがある。その同人は、メンバーの中から芥川賞作家を出したいとか、良い作品が出たら私は出版社回りをする、とか偉そうに言っていたが、そういう願望を口にするだけで行動の伴わない人だった。ネット小説が怪しからんことの根拠など提示できず、小説=印刷物で出すべき、デビュー=同人誌で書いて出版社の編集者に注目されること、などとアナクロなことをほとんど盲目的に信じていたきらいがあった。私は数年前に同人を去ったが、その前後の様子を見、またその後の文学同人の様子も人づてに聞いた。察するに、その文学同人は現在、芥川賞どころか出版社から注目されることもなく、ただのお年寄り文藝サークルの様相を呈しているようだ。

さて本書を読むと、従来の新人賞とWEB小説では、同じ書籍化でもプロセスに大きな違いがあることが分かる。新人賞は下読み、編集者、選考委員の順で選ばれるが、WEB小説は編集者が投稿サイトのランキングも考慮して作品を直接読み、見込みがあれば即書籍化となる。

書籍化=デビューを目指す書き手としては、その方法が新人賞だけでなく投稿サイトにも広がったと見るべきか。もちろん、投稿サイトに限らずブログやホームページでの発信という方法もあるだろう。

編集者は新しい才能を常に探しているだろうから、書き手としては作品を読んでもらう機会は多くするに越したことはないと思う。

ただし、書籍化も、その後の作家としての歩みも、書き手が生み出す作品が面白くなければ駄目であることに変わりはないだろう。ネットで発信することがけしからんなどということはない。作品そのものが面白いかどうかだ。