以前、佐伯一麦の仕事机には電鍵が置いてあることをこのブログで書いたが、では抽斗には何があるかというと、「真空管」がしまってある。そのことは夏葉社の『冬の本』(2012年)という本で佐伯自身が書いている。
この本は、「本を愛する84人」から、「冬の本」について寄稿されたものをまとめた一冊。その中で佐伯は、柴田翔『されど われらが日々--』(文春文庫、1974年)に収められている「ロクタル管の話」を紹介し、自分は子供の頃、真空管ラジオを作るのが趣味だった、という思い出話も披露している。佐伯は「ロクタル管の話」を中学生の頃に読み、表題作よりも親しんだ、と述べている。
佐伯はルナールの『博物誌』などを愛読してきて、小さなものへの愛着から『少年詩篇』(のち『あんちゃん、おやすみ』新潮文庫)を書いたし、電鍵を今も持っているし、真空管も持っている。また随筆では、政治的な話題などはほとんど見られず、身の周りで変化を続けるさまざまな動植物、虫、星、風景、などに強い関心を向けている。佐伯は博物学的な嗜好を持っていると言えると思う。