杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「明日も働こう」

佐伯一麦について調べていたら、宮城県図書館だより「ことばのうみ」第2号(1999年7月発行)の表紙エッセイ「触読のすすめ」が見つかった。

http://www.library.pref.miyagi.jp/about/publication/kotobanoumi/kotoba-2.html#2

どこの図書館でも出しているような定期発行の広報誌をウェブでも全文掲載しているのだろう。いつか宮城県図書館に行くことがあったらバックナンバーを見てみたいが。

この短いエッセイで面白いのは、佐伯が十八歳の頃に書店で働いていたと書いているところである。二瓶浩明の佐伯年譜には、佐伯は仙台一高中退(本人は中退したつもりだったが高校側から卒業扱いされていた)の後、上京して新宿区西落合に住み、蟠竜社という週刊誌などの記事を書くフリーライターの事務所に勤めたが給料が安いので、都内の書店でアルバイト店員をした、と書いてある。「触読のすすめ」で佐伯の書いていることと符合する。ちなみに当時の佐伯が薄給で苦しい中で買ったのは『ファン・ゴッホ書簡集』全六冊(みすず書房)である。

記事の末尾には「本は、明日も働こう、という静かな熱を与えてくれているようだ。」とある。おや?と思った。「静かな熱」といえば、佐伯が本名の佐伯亨で応募し「かわさき文学賞」入選を果たした最初期の作品である。作中には「静かな熱」というフレーズは出てこないが、若くして毎朝新聞配達のアルバイトをする多感な少年が描かれている。当時の佐伯は自分に「明日も働こう」と言いたかったのかも知れない。

なお「静かな熱」については図書館のレファに質問が来たことがあり、図書館は2009年に回答しているようだ。

http://www.library.pref.miyagi.jp/search/references/ref-case-archive/381-ref-case-66.html#case2