杉本純のブログ

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復讐雑感

フジテレビのドラマ『モンテ・クリスト伯』が終わった。

デュマ・ペールの原作を読まずにドラマを先に見たのだが、ストーリー展開があまりに面白く、かねて読もう読もうと思っていはいたものの読めていなかった原作をやはり絶対に読まねばと思いを強くした。

さて、このごろよく考えることの一つに、この作品のテーマである「復讐」がある。

モンテ・クリスト伯』のような復讐劇は、今の日本の社会の、犯罪などとはほぼ無関係に生きている人間にとって、どれほどリアリティがあるのだろう。ドラマは原作の設定を大胆に現代日本に転換していて、その意味ではリアリティはあったが、テロリストだとか警察による犯罪とかが関わっていたから、題材はあまり身近とはいえない。

かつて読んだいくつかのエッセイの中で、現在の日本社会では小説になる題材といえば「恋愛」くらいしかないのではないか、といったことが書かれていた。では、「復讐」はどうか。

島本理生の『あなたの呼吸が止まるまで』(新潮社、2007年)は復讐の小説だ。しかし、この小説では性犯罪が関わっている(はっきりとは書かれていないがそう読み取れる)。ただし身近な親しい人からそういう目に遭わされたという点などが加わり、単なる犯罪、つまりエンタテインメントにはなっていないし、小説の存在自体が復讐になっていて中身は復讐劇とはちょっと違うものになっている。

では犯罪がらみでない復讐はあるかというと、やはりあるだろう。恨みや憎しみといった感情は犯罪に遭わなくても誰もが抱くものだ。失恋、敗北、離別…。これらは相手に悪意がなければ恨みに発展しないかもしれないが、悔しさや憤懣や悲しさが芽生える。また嘲弄、見下し、軽蔑、無視、虚偽などは憎悪に発展しうる。私はこれまで何人かの年長者にひどく見下され、おちょくられ、からかわれて今でも思い出すと腹が立つ。

そしてそれらに何らかの行動をもって報いようとすれば、それは立派な復讐だと思う。その復讐行動は、相手に危害を加えることではない。