越澤明の『東京都市計画物語』(ちくま学芸文庫、2001年)の常盤台の章を読んでいたら実際に見たくなったので行ってきた。
常盤台が東武鉄道によって開発されたのは1935年から1938年。宅地造成される前は上板橋村といったそうだ。田園調布、成城学園、そしてこの常盤台が、昭和初期に開発された首都圏の高級住宅街の中では屈指であるらしい。
実際に行ってみると、なるほど「お屋敷町」とも呼ばれるのを実感させられる豪邸の数々。人影はまばらでとにかく静か、プロムナードが整備され、道路には中央植樹帯があるという、『東京都市計画物語』で「優美なデザイン」と書かれているのが納得できる街だった。
私が興味を持ったのが、本書に書かれている「クルドサック」と「ロードベイ」だ。この二つがプロムナードと共に常盤台のアーバンデザインを特徴づけている、とのこと。
「クルドサック」は「袋路」という意味で、車が真ん中の植栽スペースを巡るように転回できる道のことだが、これが常盤台には五か所設定されている、と書いてある。それを全部見てきた。
「クルドサック」があることで住宅地に緑のオープンスペースが増える、とある。私としては、その奥にある災害などの非常時用に設けた路地に魅力を感じた。
「ロードベイ」は「張出道路」のことで、常盤台では公園として整備されているが、本来は芝生を主体としたオープンスペースであるらしい。プロムナード沿いに作られるべく設計されたがその通りにはならなかったようだ。
常盤台の当初の設計は碁盤目の区画割というありきたりのものだったが、当時の東武鉄道社長が計画を白紙に戻し、内務省と都市計画東京地方委員会の指導の下で設計し直したそうだ。設計に当たったのは、当時内務省官房都市計画課第二技術掛に配属されたばかりだった故小宮賢一。
楽しい散歩だった。街の成り立ちを知ると、その街を眺めるのが面白くなる。