杉本純のブログ

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たたら製鉄とものづくり

「ものづくりの神髄」

NHKスペシャル「玉鋼に挑む ~日本刀を生み出す奇跡の鉄~」を観ました。

美術品として世界に多くの愛好家がいる日本刀の材料である鉄・玉鋼(たまはがね)。「たたら製鉄」という、世界で島根県の奥出雲にしかない製造法による製鉄の現場に密着したドキュメンタリー番組です。いろいろと、考えさせられました。

たたら製鉄について、番組では「日本のものづくりの神髄」という言葉を使って紹介されていました。簡単に書くと、粘土でできた釜に砂鉄と木炭を三昼夜の間、投じ続ける製鉄方法です…が、極熱の炎の近くで夜を徹して続けられる作業は極めて過酷です。職人たちを指揮する村下(むらげ)を務める人はすでに高齢で、三昼夜にわたり指揮し続けることは不可能。村下の後継者候補の人たちに一部任せる箇所もありました。文字通り、身を削ってのものづくりだなと思った次第。

たたら製鉄というと『もののけ姫』が思い出されますが、刀や鉄を用いた武器の需要が多かった乱世には、ものづくりも命懸けだったんだろうな、と。また燃料の木炭というと、『鬼滅の刃』の主人公が炭焼きの一族だったような。

三昼夜かけて作られる鉄は、鉧(読みは「けら」。字は金偏に母)という大きな鉄塊を生み出し、その中にある高純度の玉鋼が、日本刀の材料になります。昨年はその玉鋼が巧く生成できなかったらしく、熟練の職人たちの勘と技をもってしても、いいものがいつでも作れるわけではないらしいです。

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小説に似ているかも

番組を見ながら勝手に想像を膨らませました。もしかしたら、玉鋼の生成は小説の創作に似ているかもなと。材料を燃焼させ、高純度の生成物にするにはそれなりの時間をかけなくてはならない。かといって、単に時間をかければ良いというものでもなく、燃やしている最中も良質な燃焼環境を維持しないと、どんどん不純物が増えていく。いい玉鋼がたくさん取れる時もあれば不作の時もあり、こうすればうまくいく、という答えはない。小説の創作もそれに似ている気がしますし、起業や新事業を成功させることも似ていると思いました。

職人の中には大阪大学で熱学を学んだという理論家がいましたが、その人は玉鋼製造の理論化できない神秘に魅せられていたようで、ものづくりも事業も、そういうことなんだろうなと。うまくいく方法があるとしたら、それは失敗を重ねながら、成功するまでしつこくやり続けることなのでしょう。

今年はコロナ禍の影響などもあり、たたら製鉄の操業は一度だけだったそうです。職人の人数は忘れましたが、一度の操業で職人たちの一年分の給料を全て払うほどの売上を出すのは恐らく無理でしょう。中には刀匠をしている職人がいましたが、皆それぞれ兼業しているはず。たたら製鉄は戦後、伊勢神宮のバックアップを受けて復活できた、とのことでした。このデジタルの時代、たたら製鉄という産業自体が支援の対象なのです。たたら製鉄に限らず、人間によるものづくりというのは、すでに全てがそういう時代に入っているのかも知れない、と思いました。