杉本純のブログ

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佐伯一麦『ミチノオク』第四回 大年寺山

「新潮」2021年8月号に、佐伯一麦の連作『ミチノオク』の第四回「大年寺山」が掲載されている。前回の「飛島」は昨年11月に掲載されたので、九か月ぶりの新作ということになる。

ちなみに2021年8月は「文學界」に佐伯の短篇「うなぎや」が発表された月でもあり、佐伯の読者にはうれしい月となった。

さて、大年寺山は仙台市太白区にある山で、佐伯はここに建つ集合住宅に住んでいる。今回の内容は、コロナ禍によって遠出ができなくなり、さらに今年、ぎっくり腰をやってしまったこともあって運動不足を痛感し、自宅近辺の散歩を習慣化したことで、地元の歴史を再発見する、というもの。

大年寺山は伊達家の墓所があるところで、「大年寺山」ではその界隈の風物や伊達綱村の事績について述べられている。やはりこれまで掲載されてきたものと同様、随想風の紀行文といった趣である。

作品の冒頭、枝垂れ桜の老木を見て「昨年の二月半ばに亡くなった同業の年長の知人」が思い出される、とあるのだが、それは古井由吉だろう。その他、佐伯の伝記的事実に関連する事柄が複数あるので、それらはこれからじっくり調べていきたいところ。

大年寺山には中世の豪族・粟野氏の居城「茂ヶ崎城」があり、「〈茂ケ崎城趾〉という標柱が立っている」とある。私はこのくだりを読み、ひょっとして「うなぎや」の主人公「茂崎皓二」の名字はここから取ったのではないか、と思った。