杉本純のブログ

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大江健三郎と『村の司祭』

大江健三郎『人生の親戚』(新潮文庫、1994年)は、小説の中にバルザックの『村の司祭』が出てくることが私には興味深く、ほとんどその箇所を読むためだけに手に取ったところがある。

主人公の「僕」は、二人の子を失くした倉木まり恵を思い、まり恵と同じような境遇だと思う人物・ヴェロニックが主人公として出てくる『村の司祭』を紹介する。

 僕は全集版から当の巻を探して来てわたし、かつは彼女と妻にこの長篇の概要を話しもした。メキシコ・シティーで、僕は「コレクシオン・フォリオ」という文庫版を手に入れ、学生時代から二十年ぶりに読みかえしていたから、なお記憶は新しかったわけだ。

とある。「コレクシオン・フォリオ」は、フランスの出版社だろうか。一方、「全集版」とあるのは、東京創元社の『バルザック全集21』ではないかと思ったが、これは1975年初版で、それよりはるか以前の1941-42年に河出書房から『バルザック全集』が出ていて、その中にも「村の司祭」(吉江喬松、恒川義夫訳)がある。