杉本純のブログ

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三田誠広の小説教室

集英社文庫三田誠広「ワセダ大学小説教室」シリーズは、元は「小説創作教室」という、三田が1994年に早稲田大学で行った授業の講義録の三部作である。三冊とも、読みやすく分かりやすい良書だと思う。特に三田の言う「深くておいしい」にはなるほどと思わせられ、小説を読み解く上でのキーワードの一つになっている。

シリーズ最終の『書く前に読もう超明解文学史』(2000年)は、たしか病院で診察待ちの間に一気に読んだ。主に戦後五十年くらいの文学の流れを中心に、主要な作家と作品について批評している。

印象に残っているのは最後に載っている「解説 インタビュー」で、聞き手は編集者の中村政幸。文庫版刊行にあたり、単行本刊行後の文学の状況の変化について三田に聞いている。

その中で、河出書房新社の「文藝」が「J文学」というキャッチフレーズを掲げて若い書き手を売り出している状況について、三田が述べている箇所。

一読して感じるのは彼らの多くは文学的な教養がないということですね。というか、文学的教養だけでなく、およそ教養というものがまったくない(笑)。文章が思いっ切り下手です。はっきり言えば、単なるバカです。だけど細部は面白いですね。多くのJ文学の書き手が描いている世界は大学なんか出てこないです。むしろ専門学校です。デザイナーであったり、映画を作る学校であったりね。いまだと床屋さん、ヘアデザイナーかな。
(中略)
本来は職人養成所みたいなところであるはずなんだけど、ファッション業界とか、映像文化とか、パソコン関係など、時代の最先端に触れるような職業がありますから、そのはなやかな世界に憧れて、いかにも軽そうな若者たちが、業界の底辺で使いっぱしりみたいなことをしながら生活している。そのささやかな日常を描いているわけですが、地の文は思いっきり下手で文章になっていないんだけど、細部はしっかり描かれているし、会話だけはものすごくリアルでけっこういきいきとしている。

その後の方で三田は、テレビに出てくる人の藝のレベルが「学芸会化」していると言い、「J文学というのは『文学の学芸会化』だね」と言っている。そして自分自身はそういう学芸会には出たくなく、名人や文豪になりたいと話している(インタビューが行われたのは1999年12月31日)。

どうして印象に残ったかというと、私自身が映画学校を出てから薄給で生活し、その周辺の人間模様を小説に書いていたから。